先日最終回を迎えました伝説のレベル1勇者、最終三巻が各電子書籍サイト及びヤンジャンアプリ(無料チケットあり)にて2021年9/17日より配信されております。
残念ながら3巻は電子のみとなります。
紙の本を印刷するのは1万部程度からなので、印刷代だけで300万くらい経費がかかってしまうため、回収が見込めない場合は刷ってもらえないんですね…
紙の本で集めて頂いていた方にはこの場を借りてお詫び申し上げます。
ストーリーはぶつ切りのような形にならず、勇者もちゃんとした勇者らしくなり、魔王との関係性も区切りのいいところで終われたので、これはこれでやり残したことはないのはよかったと思います。連載終了はとても怖くて、決まったときは自分の葬式みたいに悲しかったものですが、いざ終わってみると喉元過ぎればなんとやら的な感じで思ったより平気でした。こういうのはおばけと一緒で、「出るか、出るか」というサスペンスが怖いのであって、出たら出たで、別にそれだけのことなんですねぇ。その後はマジックザギャザリングアリーナというスマホゲームを一日5時間プレイして気を取り直し、現在、新作の読み切り(すきあらば連載)企画を月に1本くらいずつ生産しています。いずれかはそのうちお目にかかることもあるかと思いますのでよろしくお願いします。
作品が変わってもキャラクターの本質は変わらないような気がします。見た目や設定がかわっても、同じ作者からは似たような人物がでてきます。
繭の中で一回ドロドロに溶けて新しい人物に生まれ変わった勇者たちの来世にご期待ください。オマエタチハシナナイ…ウマレカワルノダ…
さてここからは、今回の連載を通じて技術的に気がついた部分などの制作メモです。ストーリー作りの話になります。
この作品は、昨今のなろう系ファンタジーのゆるさに対する反発で、ちゃんとピンチになるような大冒険をする話をやりたいと思って、あえて主人公を弱く設定しました。コメディを基調としつつも、弱い主人公が、努力や工夫で少しずつ強くなっていく王道展開を目指したのです。でもこれって、普通の少年バトル漫画と同じなんですよね。なろう系ファンタジーは展開をスーパーイージーにし、魔法や武器などの設定部分をベタべタに共通化することで読者がストレス無く読め、そうすることで王道漫画と競合を避けて「気楽に読める」というマーケットに食い込んでるというのが強みなわけで、それを王道展開に戻すというのは、世界観が無個性な少年漫画になるだけです。これは結局のところ、「車輪の再発明」だったのではないでしょうか。
というわけで、王道少年漫画にするならかっこよくて冒険心をくすぐるオリジナリティのある設定が必要でしたし、勇者と魔王というベタなパロディをやるならコメディに専念していたほうがよかったんだろうなというのが僕なりの事後評価となります。
一番描きたかったのは勇者と魔王の性格や関係性だったので、そこを残すとすれば、最後の3話でやったラブコメ展開を最初からやれてれば一番よかったんじゃないかな。
それを踏まえた上で、以下では、王道少年漫画として考えた場合の反省点をまとめて行きたいと思います。連載は1話ずつ完成させていくので、物語全体を俯瞰することができず、毎回、「こうすれば面白くなるだろ…!?」ということを手探りでやっていくしかないわけですが、そのせいで色々失敗してしまった部分もありました。
まず、1巻。最後のほうで勇者が闇落ち暴走モードになったところ。あれは、担当さんからミコがイジメられてるような大ピンチには主人公がちゃんと怒らないとおかしいって言われて入れたんですが、勇者くんには怒るような根性は元からないので、「切れる」になっちゃったんですね。弱さを攻撃性に変えるのは「怒り」ではなく「殺意」で、主人公にあるまじき態度であり、あんな喧嘩にナイフを持ち出すような勝ち方ではなく、男らしく勝つ何らかの能力あるいはメンタリティをあらかじめ持たせておいてあげるべきでしたし、そうでなければあのようなシリアスな展開はやるべきではなかったかも。
2巻。買い物とか修行パートが長くなりすぎた問題がありました。これは1巻のように闇落ちしなくても勝てるようになるためだったのですが、設定段階での準備不足でしたね。弱く、バラバラだった勇者たちが強くなって一つにまとまればドラマになるだろうとの計画でしたが、実は、修行したりまとまっていく過程…いわば「努力」自体に面白さはありません。「まとまって、強くなって、勝利した」瞬間が面白いわけです。だから設定段階で、長々と読まなくてもふとしたきっかけで面白いシーンがバンバン出てくるくるように工夫しておかないといけなかった。これは、強い主人公にすればいいというわけではありません。読者の想像以上のスピードで成長する主人公(&パーティ)にしなくてはならないのです。例えばこの工夫には、主人公の欠点が意外な利点になる(欠点描写がそのまま修行シーンを兼ねられる)だとか、ジャンルが斬新で修行風景そのものが興味深いだとか、解決策は色々ありますよね。ただ今回は初期設定にギミックを仕込んでいなかったので、「まとまって、強くなって、勝利した」という流れ自体は間違っていないわけですが、お客さんがテーブルに座って食事を注文して、そっから仕込み作業を初めてしまうような感じになってしまったのは正直よくなかったと思います。バトルシーンは意外と本格的なのが描けるようになっていって、それをダシにしながらコメディへ落としていくという形態を会得できてよかったです。
3巻。カシュ戦で勇者が「なんとなく」とか言って勝ってたときとか少年漫画的には一番面白かったと思いますが、その後の魔人化カシュにボコられたりする展開はシリアスのやりすぎで、作品のコンセプトとしては脱線していたように思われます。勇者くんなんかどうせ熱血キャラじゃないんだから、ああいうの似合わないですよ。でも、シリアスな戦いが面白そうで、ついついやりたくなっちゃったんですよね~。あれは、そこそこ面白かったけど、他の商業作品に勝てるほどではなかった。ただし、あのような経過をたどればヘタレの勇者くんは英雄キャラに進化するとわかったので、次回作からは、ああいうノリのキャラクターを最初から描けます。作者としては収穫が大きかった。
この、諸々の初期設定問題、「勇者が弱すぎた」ってことなんですよね。なろう系みたいにカタログスペックで漠然と強キャラを描くのではなく、まじめに感情のこもったキャラを描く場合、弱い主人公は強い主人公より描きやすいんですよ。作者も弱いただの人間ですから、自分の分身を描けばいい弱キャラのほうが描きやすい。それで、まあそれが完全に悪いわけではなく、物語の中でキャラクターと一緒に作者も強くなっていけばいいわけです。読者も感情移入しやすかろうと思われます。
しかし本作の場合、レベル1でも意外と強いってのはいいとしても、「1vs1なら無敵だが、剣を振ると硬直するから2対1だと雑魚相手でも負ける」とか、なぜ、後付設定を増やしてまで弱くしてしまったのか…。これは、無意識に楽をしようとしていた気がしますね。勇者が弱ければ相対的に敵が強くなるので、些細な出来事でも話の山を作りやすいんです。このような姿勢は、敵も引っ張られて弱くなるので、よくない。作者は楽ですが。強い主人公よりもっと強い敵を、世界観を壊さない範囲でどんどん出して、それを上回る主人公の大活躍で読者を驚かせていくような感じで、頭をひねって頑張らなきゃいけないところです。途中で気づいて強キャラのカシュとかドラゴンとか出しつつ、ちゃんと勇者が機転を利かせて倒す感じにしたのですが、そのへんの軌道修正は悪くなかったと思います。
さて、色々と反省点は尽きませんが、実際に3巻分連載してみたことで、人の作品を分析するだけではわからないこともたくさん学べましたし、キャラクターのストックも増えました。(魔王みたいなキャラがデレると面白いとか、勇者がマイペースを炸裂させるとかっこいいとか)また、売れている商業作品ほど多くはなかったですが、楽しんで頂けた読者様方もいらっしゃったのは嬉しいことでした。今回の経験を踏まえ、次こそはヒットする作品にレベルアップしていきたいと決意を新たにする次第です。
伝説のレベル1勇者、ご愛読ありがとうございました!