こんにちは、漫画原作者のしゃど地蔵です。今日は2025年1月25日に少年ジャンプ+に掲載された読み切り、『猫輩は神である!』についてゆっくり語っていきたいと思います。制作過程、企画が通るまでなどの活動内容を報告します。

なお本作には読み切りであるにも関わらず英語版(MANGA Plus by SHUEISHA)が存在しており、引用するとこんな感じでした。最近のジャンプ+は凄いですねー。
さて本作品のストーリーについて軽く紹介しますと、主人公の少年が里帰りした村には「猫」がたくさんおり、まるで神様のように大切に飼われ、どうやら崇められている様子。実はその村は、古代エジプトの「猫神バステト」が中世に流れ着いて土着化した「ばすてと様」を祀る因習村で…というお話です。
本作は原作(原作者デビュー)をしゃど地蔵が担当し、作画を高岡蓮先生に担当して頂きました。さすが少年ジャンプ所属の漫画家さんということで、高岡蓮先生は画力がすごいんですけど、絵柄的にも僕がイメージする以上にフィットしたものを描いて頂けて、たいへん嬉しかったです。もうほんとに、進捗が上がってくるたびに 嬉しすぎて布団で身悶えしてましたし、リネームが最初に上がってきたときはいっぺんに見れなくて目を閉じて5分休憩を2回はさみましたね。
この作品が完成し、発表されるまで、長い道のりでした。ジャンプで担当がついて、なんやかんや発表まで2年以上かかっております。
時は遡り…本作が着想されたのは2022年秋ごろ。始まりは他誌でした。しゃど地蔵が、某有名編集者さんに弟子入りしていた時期ですね。打ち合わせしてた別の企画が暗礁に乗り上げたので、どうしよう、なんか他のネタやろうって思って、昼ご飯を買いに自転車を運転していたときに思いつきました。
連想ゲーム
自分が好きな女キャラって?やっぱ女魔王やりたいな→単純な女魔王は競争が激しすぎる→魔王っぽいマジカルなヤバくて強い女っている?→魔女?→魔女と言えば猫?→猫魔女+魔王?→猫神バステトっていたなぁ
みたいな感じでした。その頃には猫を可愛がるのだけが仕事みたいな生活をしていましたし、猫というコンテンツが熱かったのもあります。そして描かれた初期バージョンが以下のようなネームです。

この時点では、猫神バステトが浪人生の家に転がり込んでくる押しかけ女房(うる星やつら型)って感じの話でしたが企画が弱かったんですよね。やっていることが、ただの猫耳美少女の域を出ていない。
また、普通にロリコン漫画なのでメジャー誌で戦うには主人公がキモいです。そのうえ、この主人公はロリコンとしても中途半端で性欲をみせないため、Hな展開もないですから、おそらくマイナー媒体でも厳しい。似たジャンルの『干物妹!うまるちゃん』は兄妹の血縁関係の設定でそのへん回避してますから、設計段階で時代遅れですよね。
この旧バージョンを例の有名編集者さんに見せてたんですけど、『人類飼育計画』『人類が猫を飼っているのではない、猫が人類を飼っているのだ』というスローガンは面白いとのことで何度か調整…しかし、やがて返事が来なくなったので「ネーム届いておりますでしょうか?早く修正して漫画家として働きたいです!」ってやる気アピールして催促したら、こっちは忙しいんだからもう送ってくるなと怒られました。
トホホ…って感じだったけど正直、厳しい師匠に勘当されて解放されたような気分でもあり、不思議と悲しくありませんでした。とにかくもう怒られなくていいんだと思って、しゃど地蔵は安堵したといいます。それ以上のやり取りは諦めてお別れのご挨拶を送りました。
しかしその後、ちょっと面白い(?)展開がありました。
なんと、その有名編集者さんから連絡があったのです。自分が担当している、これまた有名な漫画家さんが、リネームっていって、しゃど地蔵の描いたネームを描き直したものを提出してきたから、一旦短期連載にしようという連絡が。
意味わかります?
もしかすると意味不明ですよね。
ここまでで判明した出来事を時系列で整理します。
出来事①
編集者さんは、無能なしゃど地蔵をクビにした。
出来事②
編集者さんは、しゃど地蔵に黙ってそのネームを有名漫画家さんに見せていた。
出来事③
有名漫画家さんがリネームして提出してきた。
出来事④
ボロカスのゴミ扱いされたしゃど地蔵、呼び戻される。
さて、出来事②なのですが、これはちょっとコンプラ的に怪しいですね。企画の参考にとかゴニョゴニョ言ってたけど、ひょっとしたら、上手くパクらせるつもりだったのかも…あるいは、その先生はスランプ気味だったそうなので、やる気が復活するように正式な作画担当としての「提案未満の根回し」をしていたのかもしれませんが、ネームって、第三者である別の漫画家に、勝手に見せても良いのだろうか…という疑問は拭えませんな。とはいえ、結果的にリネームが上がってきましたし、 僕はその先生の絵が前から好きだったし、演出面も超パワーアップしていたので、すごく嬉しくて有頂天になりました。
しゃど地蔵には、漫画家としてのプライドはないのか。
それはケースバイケース。今回は相手のほうが遥かに格上なので、平伏です。
僕は学べることがあるなら泥水でもエアコンのドレーン水でも啜りますよ。
セリフはこういう風に変えたらいいんだ、構図はこうやるんだ、こんなにキャラクターは元気いっぱいに動くのかって、自分にない天才的なセンスで再構成されたリネームをみるのは本当に勉強になりました。
なんだかとても嬉しかったです。両親にも報告しました。家族みんなで喜んでお祝いにロールケーキを食べました。夢は広がっていくもので、アニメ化してお金を稼いだらキャットウォークがついてる家を立てたいな、とか思っていました。
漫画家の先生、編集者さんと3人で音声チャットで打ち合わせをし、リネームにあわせた続きを書いて送りました。有名な業界人と仕事ができて、はしゃいでいました。
短期連載用のネームを送ってから1ヶ月かそこらか経ち、音沙汰がありません。どうなっているのだろう…そわそわしてしまって、他のことが手につかない…編集者さんにメールで聞いてみることに…
そしたら帰ってきたのは『しゃど地蔵のネームが面白くないから作画の先生はやる気を失われた、お前のネームが面白くないのが悪い、これは商業漫画の第一線で活躍する我々の総意である』というような、謝罪や慰めはおろか、厳しいお叱りを受ける内容のメールでした。既視感のある展開が繰り返されました。
まあその…有名漫画家さんが、実際にどういう風に作業を放置されるに至り、今回の連絡が届くに至ったのかはわかりません。よく編集者が「上手いこと調整しときます」みたいな感じでオブラートに包んで伝えるやつが「4トントラックに満載してぶつけときます」みたいな形で発動して、雑魚漫画家のしゃど地蔵が道路に飛び出したカエルのように轢かれたのかもしれません。
ちなみに、その有名漫画家さんはメンタル不安定だけど優しい性格の人っぽかったし、こんな処刑が執行されたってのは知らないんじゃないかな。だからその人のことはあまり恨んでもいません。プロとして裏切られたので、もうファンではないですけどね。
大手出版社がすべてを牛耳るメジャー漫画業界とは、資本主義が極端に肥大化し大企業が圧政を敷くディストピアのように冷酷な世界なのです。アーマードコアと一緒です。だからこそ、実力次第でいつでも誰でもいきなり出世できるわけで、僕はこの業界の商習慣が大嫌いで、大好きです。運を掴めなかったのは僕の実力不足の問題。もし、しゃど地蔵に人権というものが存在していたら、最初からチャンスなど無かったでしょう。漫画家を安易に捨てられないなら出版社はある種の雇用リスクを背負うことになりますから、正社員の新卒採用のように高学歴しか採用しなくなります。
まあだからと言って、こんなイジメみたいな形じゃなくたっていいじゃんか…って正直思いましたけどね。流石にこんなえげつないケースは滅多に無いですよ。普通は穏便に連絡を無視するとかそんな形。それもまたどうかと思いますけど…。
今回のケースは僕が通常の経路をぶっ飛ばして有名編集者さんに飛び込み営業みたいなことをして、編集部を通さない裏ルートみたいな形で仕事してましたからね。編集者さんもサラリーマンですから、編集部を通してたらもう少し優しいんじゃないかな。ちなみに今年に入ってから、とある有名媒体の編集者にX経由で持ち込みしたらネームの直しをやらされたあげく無視されるという対応だったりしたんで、新人賞や正式な持ち込みなどのシステムをスキップすると、ただでさえ薄い漫画家の人権はさらに薄くなるという学びを得ました。おそらくこの傾向には普遍性があります。
さて、どうでもいい裏話でした。ここまでジャンプ+に掲載された読み切りとはあまり関係のない、前日譚。長過ぎる。こっちが本編やないか。持ち上げて落とすブレインバスターで複雑性漫画PTSDを患い、僕はこの企画は忘れることにしました。しかし、どうしても忘れられなかった理由がありました。

これね。ガムの包み紙に落書きして貼り付けてた、ばすてと様の落書き。捨てるのも忍びなく、ずっと貼ったまま置いてあったんです。これをみるたびに、ばすてと様をなんとかしてあげたいな…という気持ちになりながらも、1年の歳月が流れました。薄い薄い包み紙によってキャラクターの命脈が繋がれたのです。そして…
あるとき『猫神バステト』と『因習村』を組み合わせたら面白くないか?というアイデアを思いつき、旧バージョンのネームを添えて、少年ジャンプの担当さんにメールで相談しました。
「猫神バステト」は古代エジプトの信仰であり、いきなり現代日本に出現するのが嘘くさかったんです。それを隠れキリシタンみたいに因習村で昔から信仰されているという大嘘にしてしまえば、リアルになって面白いのではないか。少年ジャンプなら主人公は少年にできるし、プラトニックな男女関係が描けるではないか。
そこからはネームを3ヶ月くらい直してたのかな?何回かやり直しましたけど、どうにかOKがでて、作画の先生を探していただくこととなりました。
作画の高岡蓮先生のほかに、実は一人目の候補の先生がいらっしゃったのですが、どうしても絵柄が合わないという気持ちがあり、サンプルをみてお断りさせて頂きました。僕みたいな雑魚漫画家がわがままをいうのは本当に申し訳ない気持ちでしたが、泥水やドレーン水を啜り、業界の闇に轢き殺されて道路でぺったんこになり、この企画には2年以上かかってましたから…どうか許していただきたい…
さらに、作画担当の高岡蓮先生は他の企画で忙しかったため、手があくまで半年くらい順番待ちをしました。
なぜそこまで高岡蓮先生にこだわったのかというと、実は、僕が週刊少年ジャンプに来てから、ポリコレ問題(?)で編集長判断で没っちゃった別の企画があったんですけど、それを高岡蓮先生にリネームして頂いてたんです。そのときのリネームも本当に素晴らしくて、どうしてもこの人に漫画を描いてもらいたい!という思いがあって、やっと夢がかなった形でした。
そうやって出来上がったのが、『猫輩は神である!』なのです。
少年ジャンプ+クラスになると、企画を通すのも大変。これを読んでいるあなたが何気なく読んでいる漫画にも、こんな感じで関わった人たちの人生という物語が編み込まれているのかもしれませんね。つまらない漫画を読んで☆1をつけて冷笑するときには、トラックに轢かれて死んだカエルのことを思い出してください。
本作は残念ながら連載化するほどの人気はありませんでしたが、大好きな猫を神として讃えることはできましたし、作画の先生にも恵まれました。猫好きの人には喜んでもらえて、ジャンプラのアプリでコメントはたくさんついたので、爪痕は残せたと思っています。猫だけに。
とにかく掲載されたときは一安心しました。ここ数年の活動の成果として、それなりに格好はついたので良かったと思います。少年ジャンプの漫画賞とかを受賞したりしたわけではなかったので、担当編集者さんは実在してない大掛かりなドッキリである可能性とかも頭にチラついており、そういうオチじゃなくて良かったです。
以上、最後までお読み頂きありがとうございました。
次の作品でお会いしましょう。ではまた。