伝説のレベル1勇者制作メモ

おかげさまで伝説のレベル1勇者は連載が続くことになりました。PV数のノルマが達成できないと短期連載で終わるという可能性もあったのですが、なんとここ数年のとなりのヤングジャンプ新連載の初動では1位の成績だそうで、嬉しい限りです。応援ありがとうございます!

原稿が溜まったら週刊連載するという方式で不定期週刊連載?することになったので、2ヶ月くらいは書き溜めになりそうです。連載再開までしばらくお待ち下さい。

さて、5話まで掲載されて伝説のレベル1勇者の企画の全体像が明らかになったことなので、反省会も兼ねて本作がどういう意図をもって設定されたのか、(僕も探り探りなので)解説というか考察する記事を書きました。めっちゃ長くなったんで選ばれし勇者の方、同業者の方か漫画の裏側が気になる人に読んで楽しんでもらえたらいいなと思います。

普通のなろう系ではできない王道ファンタジーをやる

ファンタジーは昨今人気のジャンルです。僕もファンタジーが好きだからやりたかったのですが、なろう系ファンタジーがいっぱいあるので競争が激しくてめちゃくちゃレッドオーシャンです。そこで、競争が激しいなら競争しなければいいじゃないと思いました。ほとんどのなろう系作品には、だいたいチート無双だという傾向があります。小説という読者に負担がかかる媒体な上に、ランキングを生き残るため大勢の読者に読んでもらう必要があり、そのためにはできるだけ読者にストレスを与えないイージーな話にしなきゃいけないため、どうしてもチート無双になっちゃうんですね。

伝説のレベル1勇者はその点、最初から漫画なので、小説や、小説原作のコミカライズほど展開に制限が少なく、勇者が冒頭で挫折を経験したり、弱いなりに徐々に解決方法を模索していくような王道寄りな作りによって差別化が可能でした。なおかつ、きちんとゲームファンタジーなので、なろう系読者にはリーチしています。

この部分は、漫画家がファンタジーを書く場合の強みです。チート無双を避けられるので、web小説スタートのなろう系ファンタジーと比べてはるかに競争相手が少ない海で戦えるのです。

ジャンプ漫画はドラクエの源流

日本のファンタジーの方向性を決定づけたドラゴンクエストの企画は週刊少年ジャンプから始まりました。世界一強くて心優しい勇者が邪悪な魔王を倒すというストーリーは、ようするに少年ジャンプなのです。ドラクエもいわばジャンプ漫画である以上、漫画でドラクエを表現したいなら、普通にジャンプっぽいのを書けばいいということです。伝説のレベル1勇者は「少年ジャンプ」から派生した「ヤングジャンプ」でやっているわけなのですが、大人向けになってもジャンプはジャンプなので、編集者や作家のスキルを無理なく活かせるのではないでしょうか。

レベル1である

主人公が弱いと超えるべき強敵が書きやすいですし、長い目で見ると美味しいというのもありますが、戦略的にはワンパンマンの逆張りです。となりのヤングジャンプで連載されていてウェブ漫画の金字塔になっているワンパンマンは2000万部も売れてて、となジャン読者の99%はワンパンマン読者です。それなら全てをワンパンするサイタマと逆に「弱い主人公」でバトル漫画やったら膨大な読者層に箸休め的な需要があるものと予想しました。しかも、聖剣でワンパンっていう部分は同じなので、主人公の属性は真逆でも、「誰も倒せない強敵をワンパンで倒す主人公」という立ち位置は似ています。伝説のレベル1勇者はワンパンマンの二軒目はしご客を狙いまくっています。

ワンパンマンはなろう系か?

ワンパンマンはなろう系小説と同時代にweb漫画投稿サイト「新都社」の読者ランキングから生まれた作品であり、なろう系作品と似たような環境で進化した種なんですよね。チート無双を面白く書くという意味で、最も成功したなろう系という考え方もできるのではないかと思います。だとすれば、なろう系とは読者層が被っていると思われ、となジャンでなろう系読者を想定したようなファンタジーをやるのはアリなんじゃないかと思った要因の一つです。

伝説の勇者さま

ファンタジー漫画家さんは「弱い主人公」を描いたらなろう系と競合しなくて有利なのですが、弱い主人公って、弱いんだったら何もしなくていいよっていう問題がつきまといます。強くなって有名になりたいってのは主人公の勝手な欲望だから、弱いくせに無理してヒーロー活動をすることに正当性がない。その点を本作は「伝説の勇者だから主人公が戦うしかない」という設定にして解決しました。ヒーローアカデミアでも無能力者のデクがオールマイトから特別な能力を受け継ぐところから始まっていますよね。弱い主人公は責任感を空回りさせない工夫が必要です。

勇者と魔王

ファンタジー漫画の主人公は、どんなキャラでも全員「勇者」だと思うんですよね。ガッツも悟空も肩書が勇者じゃなくてもやっていることは勇者ですし、たまにスローライフ系なんかもありますが、いつのまにか冒険し始めたりして話が進むうちに結局勇者と似てくる。ハリーポッターでさえ魔法の勉強してるうちに勇者みたいになりました。おなじように、悪役は色々いても本質的に「魔王」だと思います。

ファンタジーの利点である叙事詩的な壮大さを突き詰めると世界の命運を賭けたバトル展開になっていきますし、主人公の強さや正しさ、敵の強さや悪さを大げさに誇張していくと、なんだかんだ「勇者と魔王」という感じになってくる。だったら最初から勇者と魔王がいいよね、というのが出発点としてあり、勇者と魔王のファンタジーというテーマでここ数年読み切りを書いていました。勇者と魔王こそ、最もファンタジーらしいファンタジーが描けるのです。

レベル1魔王

よくあるエルフの魔法使いを極限まで強化すると女魔王ですよね。それにバトル漫画の仲間キャラって、だいたいピッコロとかベジータとか倒した強敵じゃないですか。だったら魔王が仲間になったら一番面白いじゃん!って思って勇者の仲間は魔王にしました。ただしレベル99勇者と魔王が組んでても倒す敵がいないのでギャグ漫画しかできません。ピッコロ大魔王が仲間になる前後のドラゴンボールのようにサイヤ人みたいな「外敵」を呼び寄せる手もありますが、それをやると勇者と魔王を頂点とするファンタジーという枠組みが壊れてしまいます。そこでレベル1です。お互いレベル1なので力を合わせる必要があるし、なんだかんだ世界一優秀な二人ですから、どんなピンチも切り抜けられるはずです。しかも、勇者は弱みがあって魔王に逆らえないということに気づいてネーム直してるうちに魔王がどんどん高圧的になっていき、しかしその一方で魔王も勇者に依存しているという、姉さん女房的な面白いキャラができました。

神官ミコ

最初に魔王がいたので、ミコはどちらかというと引き立て役として生まれました。魔王は悪女であるべきなのに、旦那を尻に敷いて終わりじゃ、物足りないですよね。ミコみたいな清純派の彼女がいるのにグイグイ勇者を誘惑する立場にしたほうが魔王らしさが引き立ちます。でも一応、ミコをメインヒロインのつもりで書いてます。魔王はサブヒロインのくせに立場をわきまえないファム・ファタル。

ミコは魔王ほど知能が高くないけど感受性が高く、心優しいので勇者を精神的に支えます。でもやっぱ伝説の勇者&魔王と並べるとキャラとして弱いので、これからも強化案を考えてあげないといけないですね。まあ今のままでも不可欠なポジションではあります。勇者とミコが真面目にジュブナイルしてるところを魔王がちゃちゃ入れるのは面白いですから。

人間関係はエヴァ

エヴァンゲリオンはロボットアニメですが、実はよく見るとドラクエなんですよね。

少年が聖剣を抜き、勇者になる→エヴァのパイロットに任命されるシンジ
勇者が負けると世界が滅ぶ→サードインパクト
神話的なファンタジー→人類補完計画

庵野監督がドラクエを意識していたかどうかは定かではありませんが、勇者伝説もエヴァも、キリスト教という宗教神話を元にしているわけですから似るのは当然です。じゃあ逆に勇者伝説でエヴァンゲリオンをやったらいいじゃんって思ったので、魔王(わがまま少女アスカ)ミコ(都合がいい少女レイ)という役割分担でキャラクターを配置しています。勇者くんやシンジくんのようなヘタレなくせに自分をヒーローだと思いこんでる自意識過剰な男の子には、強引に引っ張ってくれる女の子か、意見を全く否定しない女の子がちょうどいいんじゃないかな。

ゴーストスイーパー美神

漫才とバトルの書き方でGS美神にも影響を受けてます。子供の頃好きだった作品が型としてでてきますね~。
横島→勇者
美神→魔王
オキヌちゃん→ミコ
横島がビビリながらバトルしてた連載中期以降がとても好きなのですが、だんだん美神が頼れる女性から、横島に知恵を授けるけどここ一番で弱い存在になっていきましたね。その点を踏まえて美神に相当する魔王は、完全なコーチとして弱くしてあります。

魔法陣グルグル

ドラクエパロディのゲームファンタジーを語る上でこの作品は外せませんね。勇者はニケ、ミコはククリ、魔王はギップルにそれぞれ対応していると思います。魔王よく冒険の道先案内してるしクッサ~!とか言ってるし立ち位置は完全にギップル(笑)

勇者が闇の力に手を出す

勇者が追い詰められると聖剣の力が暴走したりするのもエヴァにヒントを得た設定ですが、この元ネタは原作デビルマンらしいです。弱い主人公が力を求めると暴力に頼る感じになって勝ったのに後悔しちゃうっていう型があるのでしょう。

僕の僕による僕への精神分析になるのですが、勇者がレベル1と弱く、魔王という悪女の力を借りたり、追い詰められて闇の力を使ったり…その全てが原作デビルマンをなぞっているんですよね。果たしてこれは偶然なのか?心理学的な法則性みたいなのがあるんじゃないかという気がしてます。僕の予想では「父性の否定」ですね。父性を否定する作者が描く主人公は弱くなるし力を行使すると忌むべき暴力になってしまう。心のどこかで父性を否定しているから、強い男が普通に格好いいっていう話にはならない。

まとめ

色々書きましたが、伝説のレベル1勇者の最大のウリは、レベル1なのに普通に冒険してるところだと思います。レベル1勇者の作品はたまにありますが、みんなギャグ作品です。実のところ僕自身にもレベル1勇者はギャグキャラクターという先入観があり、担当交代で編集者さんがストーリー漫画のほうが得意そうな方に変わったので仕方なく作風を転換したんですが、結果的に普通に組み立ててたらたどり着けないコンセプトに着地できてよかったと思います。

本作品のバトルシーンは、ゲーム実況動画とかではよくある縛りプレイみたいなものなんですが、レベル1でクリアする配信者さんは本当にかっこいいですよね。まさにゲーマーの中の勇者。レベル99の勇者がチート無双するよりも、本当はレベル1で頑張って強い敵を倒したほうが勇者らしくなる。レベル1勇者は意外と勇者らしい勇者なのです。

などなど、色々無限に語ってしまうくらいここ数年は勇者と魔王について考えていて、この作品を書かせてもらえないと前に進めないと思っていたので、連載が続きそうで本当に嬉しいです。読者の皆様のご期待に少しでも応えられるよう頑張っていこうと思います。

散らかった文章になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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